StatsBeginner: 初学者の統計学習ノート

統計学およびR、Pythonでのプログラミングの勉強の過程をメモっていくノート。たまにMacの話題。

「シャブ漬け」という比喩は世間でそれなりに使われている

吉野家の役員のくだんの発言については、特に非難したいとも擁護したいとも思わず、「生娘をシャブ漬けにしてる暇があったらうちの職場の近くに店をつくってくれ」ぐらいの感想なのだが(飲食店がほとんどないので)、「シャブ漬け」という喩えはそれなりに耳にする割に、えらい勢いで世間が怒っているなと感じた。まぁ、「生娘」のほうに怒っている人が多いのかもしれないが。
 

マーケティングの先生が、
 


とおっしゃっていて、それはそうだろうと思う一方で、「しかし『シャブ漬け』っていう比喩はそれなりに聞くけど、どんな場面だっけ?」としばらく悩んで思い出したのだが、「補助金」だな。


沖縄では、地元経済界が基地利権に依存しており、それが基地問題の政治的・社会的な解決を阻んでいることを指して、「シャブ漬け」と呼ぶことがよくあるらしい。確かに、何度か聞いたことがある気がする。

俯瞰的に見れば、基地を押し付け、基地と向き合おうとしない本土の人間がいて、沖縄からいくら声を投げ掛けても無視されてしまう状況がある。とりわけ復帰後は沖縄を黙らせるため、徹底的に各種補助金をつぎ込み既得権益層を引き込むという植民地主義的な戦略があった。「シャブ漬け」という言い方をよくするが、悪いのは明らかにシャブを打った方だ。打たれた側がそこから逃れられなくなるという構造が結果として沖縄にある。竜一君は、そのことへの苛立ちを時々口にしていた。
 
琉球新報(2015/12/17)「対談・石川竜一×初沢亜利 沖縄を撮る意味とは」より


社会学者の上野千鶴子氏は以下のインタビューで、沖縄の基地のみならず、国策プロジェクトを進めるに際して多額の補助金で地元の協力を取り付けることを、「シャブ漬け」と呼んでいた。

——沖縄、特に名護は新基地への賛否をめぐり二つに割れることを強いられてきた。地元としては自分たちが招いたわけでもない新基地に振り回されている。
 
「それは国策だから。巨額の金が動く。石原伸晃前環境相が福島について『最後は金目でしょ』と言ったが、沖縄も同じ構図だ。原発だけじゃない、三里塚(成田闘争)も八ッ場ダムも同じ。国策による補助金漬けの構図。シャブ漬け、だ」
 
——政府からすると、シャブ漬けにしているのに言うことを聞かない沖縄にいら立つのだろう。
 
「住民に権利意識が生まれ、受忍限度が下がったから。良いことだ。強姦だって昔は女たちは泣き寝入りしていた。訴えたら、落ち度があるんじゃないかと女の方が逆に責められた。今は女がガマンしないし、ガマンしなくてもよくなった。それに復帰後、沖縄県民も他府県の県民と同じだという平等意識が生まれた。だから『どうして沖縄だけがガマンしなければいけないのか』と思うようになった。当然の変化だと思う」
 
琉球新報(2014/10/29 )「<憲法・女性・沖縄 上野千鶴子さんに聞く>自らの未来決める時/金で魂買う構図変えよう」より


東海道新幹線のグリーン車に置いてある雑誌『WEDGE』では、ふるさと納税がやり玉に挙がっていた。

この2年で激増している「ふるさと納税」は、地方自治体と地方の生産者を”シャブ漬け”に追い込んでいる。
「下りると損」のチキンレースであるため、自治体や個人に自制を求めるのは不可能だ。国が適切な規制をかけるしかない。
(中略)
一方、自治体も”シャブ漬け”のようになっている。そもそも地元から得られる税収が少ない地方の自治体にとって、ふるさと納税による税収増は魅力的だ。通常の税収を超えるふるさと納税金額が集まる自治体さえ出てきており、後に続けと躍起になっている。
 
WEDGE(2016/1/20)「OPINION」より


JALが破綻した当時の前原誠司国土交通大臣と自民党の三ッ矢憲生議員のやり取りのなかで、親方日の丸の上にあぐらを書いた経営を行ってきたことや、公的資金が注ぎ込まれようとしていることが、「シャブ漬け」と呼ばれていた。
(議事録の表現を事後に修正しているかもしれないが、三ッ矢議員が「薬物中毒のどら息子みたいなもの」と言ったのを受けて、前原大臣が「シャブ漬けの息子」と言い換えている。)

○三ッ矢委員 (略)日本航空というのは、私に言わせると、薬物中毒のどら息子みたいなものですよ。生活に困りましたといって、じゃ、生活費の支援をしてあげましょうと。
(略)
○前原国務大臣 これは控えようと思ったんですが、どら息子とおっしゃいましたね。それはだれがどら息子にしたんですかと私は申し上げたいです。シャブ漬けの息子とおっしゃいましたね。だれがシャブ漬けにしたんだと。それを私はあえてここでは申し上げておきたいと思います。
 
第174回国会 国土交通委員会 第14号(平成22年4月21日(水曜日))


経済学者の金子勝教授は2021年のインタビューで、アベノミクス期の日銀の異次元緩和を指して「シャブ漬け」と呼んでいる。

「異次元策の麻薬効果、僕は『シャブ漬け』と呼ぶが、その最大の被害は産業衰退だ。産業の新陳代謝、必要な構造転換を阻んできた。特に製造業だ。その労働生産性は2000年代初めまでは世界一だったが、今や16位(OECD加盟主要31カ国中=19年データ)。あらゆる指標が落ちている。本来は潰れなければいけない電力会社がまだ生きている。原発部門が大赤字の東芝、三菱重工、日立など重電メーカーを異次元緩和で政策的に支えてきた。軽電のパナソニックも身売りの連続。自動車ですら電気自動車、自動運転になったら世界についていけない」
 
サンデー毎日(2021/8/22)「安倍・菅政治の罪と罰/7 金子勝・慶應大名誉教授が五輪後経済と産業衰退の悪夢を語る」より


古い話だが、テリー伊藤氏が小沢一郎氏について、与党の利権に「シャブ漬け」になっていると批判していた。これは補助金とは違うが。

小沢氏の態度について、演出家のテリー伊藤氏は「てっきりテーブルをひっくり返してくれると思ったのに、裏切られた思いだ。『妻とは別れる』とか言いながらセックスして、不倫関係を清算できずにいるダメな男のノリ。与党として甘い汁を吸ったらもう冷や飯食いには戻れないという一種のシャブ漬け状態」とバッサリ。
 
日刊スポーツ(1999/08/14)「自由党 小沢一郎党首 小渕恵三首相と会談し「離脱」の意思を引っ込める」


要するに、国からもらう補助金をはじめとして、「既得権益」「不労所得」「濡れ手に粟」のようなリソースに依存している状態を指して「シャブ漬け」ということがよくあるわけである。
これは「楽な方法に依存してしまうこと」を意味するので、吉野家の役員が単に「牛丼大好き」の意味で「シャブ漬け」と言ったならそれは不適切な用法だろう。仮に、「牛丼という安易な選択肢に頼ってしまい自炊しなくなる」みたいな意味であれば適切であり、大学生時代の私は生娘ではなかったが、シャブ漬けではあったことになる。


ところで、私が「シャブ漬け」という表現を「それなりに耳にする」と思ったのは、仕事で公共事業の関連の話題に触れることが多いためかも知れないので、どれだけ一般的かはわからない。どうなんでしょうね。