住所のデータを機械で扱おうと思った時、日本の住所は「1の1」と「1丁目1番」と「1-1」のように表記が統一されていないこと、数字の部分だけでなく町名や字名の部分も複数の書き方があること、漢字の旧字新字が混じること、アメリカ等のようにカンマでの分かち書きがされていないことなどの理由によって、処理が難しいというのはよく知られた話です(分かち書き問題についてのわかりやすい記事はこちら)。
それで苛立ったエンジニアの人が「なんで統一ルールを作らねぇんだよ!」とブチ切れたりすることがあったりするわけですが(私はエンジニアではないのでブチ切れません)、「じゃあその統一ルールは誰が作ればいいんだ?」と考えると、「そもそも誰が決めてるんだっけ?」という疑問に行き当たります。
そこで、日本の住所が何に基づいてどのように決定されているのかについて、備忘のために要約しておきました*1。未確認事項が2点残っており、分かり次第追記します。というか知ってる方いたら教えてください。
法的根拠のある権限に基づいて、誰かが定義したり決定したりしている住所というのは、以下の1〜5ですべて説明できるはずです(6は法的根拠なしです)。
- 市区町村名:当該地域の議会の議決を経て、都道府県知事が国に届け出る。
- 町名又は字名:地方自治法260条に従って、市区町村が議決の上都道府県知事に届け出、知事が告示する。
- 街区:町又は字の下の単位であり、「番地」とかが該当。住居表示に関する法律に従って市区町村が決める。
- 住居番号:街区に含まれる住居に番号を振るもの。「○番●号」の「●号」のこと。住居表示に関する法律に従って市区町村が決める。
- 地番:不動産登記法に基づいて登記所(法務省の出先機関)が決める、土地に振られた番号。住居表示とは別物なので注意。
- 部屋番号等:住居番号に集合住宅の番号まで含めている場合以外は、法律上の根拠はない。
「2.町又は字」には、「大字」「小字」「町」「丁目」などが全部含まれます。「丁目(丁)」は、地方自治法の概念上は「町又は字」に含まれるので、たとえば「霞が関1丁目」で一つの町・字を構成しています。郵便番号は丁目の手前までを表すので、混乱しやすいです。
またこれは、「市区町村」というときの「町」とは別モノです(間違える人はいないでしょうが)。私は昔、「大阪府豊中市新千里北町」という「町」に住んでましたが、こういう「町」のことです。
京都市内の「上ル」とか「西入ル」とかは有名で(わかりやすい解説はこちら)、単位としては「町又は字」の上位(前に付ける)にあたるのですが、これは慣習的な呼称であって法的な位置づけはありません。つまり、誰かが法令に則って決定したり定義したりしているわけではない。
ただしこれらは住基の情報として登録されているとのことなので、住民基本台帳法に則った市区町村長の権限による住民登録事務として、お墨付きが与えられているとは言えるかもしれません。
なお、「京都市上京区今出川通浄福寺西入二丁目東上善寺町」のように、丁目が町の前に付いている場合がありますが、これが「町又は字」の一部なのか、慣習的な表記の一部なのか確認していません。そのうち分かったら追記します。
「3.街区」には、「街区方式」と「道路方式」があり、「街区方式」の場合はたいてい数字になっていて、いわゆる「番地」(「○番●号」の「○番」)がこれに相当します。この「○番」の数字を街区符号と呼びます。街区符号は数字が一般的ですが、アルファベットや漢字の場合もあります。「道路方式」の場合は、住所は「○○通り●号」とかになります。
「3.街区」と「4.住居番号」をあわせて、「住居表示」と言います。住居表示に関する法律は市街地を対象としたものなので、田舎では住居表示が整備されていません。その場合は、町・字より下の単位として「5.地番」が住所として用いられることになります。つまり「1 + 2 + 5」という住所になっているということです。
集合住宅の部屋番号は、「4.住居番号」として定義される(つまり住居表示の一部になっている)場合と、「6.部屋番号等」に相当するような、住居表示に含まない「方書」として定義されている場合の両方があります。ちなみに方書は戸籍の登録時には含まないことになっています。
「5.地番」は登記所、つまり国の出先機関が決めているので扱いがややこしく、住居表示によっても表現できるし地番によっても表現できるというような家があり得るわけですが、戸籍法では、戸籍を登録するときに住居表示を用いても地番を用いても良いことになっています。
地番は、不動産登記法では「市、区、郡、町、村及び字」の下に付ける番号および枝番のことになってるんですが、この法律でいう「字」に、「2.町又は字」の「町」が含まれるのか分かりませんでしたので、わかったら追記します。
「番外地」とはこの「地番」が振られていない土地(例えば、明治以来ずっと国有地である場所は登記されたことがないため地番がない)のことです。
こうやって整理してみると、住所表記の統一ルールを作ると言った場合、そもそも「住居表示」が全ての建物をカバーしていないという点がネックになりそうですね。決定権限の異なる「地番」とまざった形で戸籍が作られているというのはややこしいです。
京都市の例のような慣習的な呼称については、何通りもある可能性がありますが、どれか1個を選んで「町又は字」に取り込んで自治体が決定してしまえばいいような気もします。もともと法的根拠がないのだから、新たに定義することによって「歴史的な呼称が消えてしまう」というわけでもないでしょう。
*1:Wikipediaと法律と役所のホームページを読んだだけです