StatsBeginner: 初学者の統計学習ノート

文系出身で工学部(工学研究科)の教員をしてます。

紙の教科書とデジタル教科書の教育効果を比較した研究のまとめ

 参政党の神谷代表が、「デジタル教科書より紙の教科書のほうがいい」という主張をしているらしく、個人的には賛成ですが、いろんな研究があるので場合をわけて考えたほうがいいと思います。



 紙の教科書とデジタル教科書の教育効果を比較した研究は山ほどあって、それらを横断的に整理・分析した「システマティックレビュー」や「メタアナリシス」の論文もたくさん出ています。2024年の秋ぐらいに、とある仕事で必要があってそういう論文を10本ぐらい?読んだときのメモが出てきたので、次節以降に貼り付けておきます。
 学術論文を書くために整理したものではなく、とある団体の会報誌の原稿を書くときに作った簡単なメモなので、偏りもあるし、ほぼアブストと結果の表しか読んでないものも含むので(笑)、あくまで参考程度です。
 大まかには、

  • デジタル教材の優位性を示した研究もいろいろあるのだが、読解そのものというより、付加機能(動画やフィードバックや個人ごとのカスタマイズ)がいい感じに働いているという話なので、直接比較が難しいという点を念頭に置く必要がある。
  • 単なる読解についていうと、説明文を読む場合は紙のほうが少し有利で、物語文だと差がない。
  • デジタル教科書は、「分かった気になる」過信を生みやすいという傾向がある。

という感じですかね。

レビューやメタアナリシス

 

Delgado, P., Vargas, C., Ackerman, R., & Salmerón, L. (2018). Don't throw away your printed books: A meta-analysis on the effects of reading media on reading comprehension. Educational research review, 25, 23-38.

 2000年~2017年の54件の研究に対するメタ分析。紙媒体とデジタルデバイスで、同じ内容の文章の読解を比較した研究に限定している(電子書籍にいろいろ付加機能がついてると純粋な比較にならないので)。総じて、紙の教科書のほうが教育効果が高いという結果が出ているが、面白い発見としては、
(1) 自分のペースで読書できる場合より、時間制限がある場合に、紙の優位性が顕著になる
(2) 物語文のみなら、紙でもデジタルでも違いがないが、説明文・情報文や、説明と物語の混合文だと、紙が有利になる
(3) なぜか、新しい研究ほど、紙の優位性が強くなっている傾向がある。

Clinton, V. (2019). Reading from paper compared to screens: A systematic review and meta‐analysis. Journal of research in reading, 42(2), 288-325.

 システマティックレビューとメタ分析を行い、29本の論文から33件の実験を抽出した。無作為割り当てによる実験を行ってて、基本的な読解力を有する参加者が対象であり、2008年から2018年の間に発表された研究が対象。全体としては、紙のほうがわずかに教育効果が高い。説明文では紙のほうが有利で、物語文では差がない。理解度についての自己評価は紙のほうが正確で、デジタルだと自分の理解を過信する(分かった気になる)傾向がある。年齢による媒介効果はないので、子供でも大人でも同様(紙で勉強してきた人たちはそれに慣れてるだけでは?という指摘がよくあるので、大人と子供の比較は重要)

Zhang, R., Zou, D., Xie, H., Au, O. T. S., & Wang, F. L. (2020). A Systematic Review of Research on E-Book-Based Language Learning. Knowledge Management & E-Learning, 12(1), 106-128.

 言語教育に関する過去10年間の52の実証研究の結果を整理。総じて、電子書籍はプラスの効果を持つことが示唆されていると言えるが、研究の多くは未就学児と大学生を対象にしたものに偏っている。また、電子書籍が効果的なのは、付加価値的な機能が付いているからである。「マルチメディア」「フィードバック提供」「ゲーミフィケーション」「個別化」が、学習の効率性を高めるためによく導入されている。なので、単純に読解力だけを比較しているわけでもない。

Egert, F., Cordes, A. K., & Hartig, F. (2022). Can e-books foster child language? Meta-analysis on the effectiveness of e-book interventions in early childhood education and care. Educational Research Review, 37, 100472.

 2000年から2018年までに行われた17の実証研究のデータについてメタ分析を行っている。保育園レベルの幼児の読解力に関する研究で、印刷した本の読み聞かせよりも、電子書籍のほうが有意に効果が高いことが分かった。ただしこれは、純粋な紙と電子の比較というより、子供の注意を引くための様々な工夫が入っているからである。アニメーションによって物語の理解を助けたり、音声や音楽で効果を出したり、文字を自動でハイライトすることによってどこを読むかを示したり、辞書の機能がついていたり、物語の内容に関連したミニゲームがついていたりする。

Suriani, N. M., Agustini, K., Sudhata, I. G. W., & Dantes, G. R. (2023). The Effectiveness of E-book in Learning Process: A Systematic Literature Review. International Journal of Social Sciences, 6(2), 43-50.

 2020年から2022年までの10件の研究を整理したもので、多くの研究でe-bookは紙の本と同等以上の学習効果を示した。PDF教材は10件中7件、インタラクティブ教材は10件中5件で使われていた。一部、e-audiobookも使われている。インタラクティブe-bookが最も効果的とされ、その理由は、テキスト・画像・動画を組み合わせて複雑な内容を視覚的に説明できるため。ただし、不要なインタラクティブ機能が読解の妨げになることもある。ゲーム要素を加えた「ゲーミファイドe-book」の可能性も示唆されているが、研究数が少なく今後の検討が必要。

International Publishers Association and Norwegian Publishers Association (2020). Paper and Digital Current research into the effectiveness of learning materials.

 国際出版連合のプロジェクトチームが4年間にわたる研究の成果をまとめた報告書で、長い文章や複雑な文章を読む上では、紙媒体のほうが効率的で、より深い理解をもたらすものだと主張されている。一方、グループワーク、迅速な情報処理、ドリルのような演習、問題解決型の教育には、デジタル教材を用いることが効果的であるとされている。
 「デジタルテキストの表示が個人の好みやニーズに適切に合わせられている場合、理解力は向上する可能性があるものの、そうでない場合、読者は自身の理解力について過信し、 デジタルで読む際には、より多くのスキミングと読解への集中力の欠如につながる」ということらしい。

Rahim, F. R., Suherman, D. S., & Muttaqiin, A. (2020). Exploring the effectiveness of e-book for students on learning material: A literature review. In Journal of Physics: Conference Series (Vol. 1481, No. 1, p. 012105). IOP Publishing.

 物理の教育(主に高校)における電子ブックの教育効果を検証した12本の論文をレビューしたもので、すべての研究で電子ブックは効果的とされている。あまり具体的に紹介されていないのでよくわからないが、物理が苦手な学生は多く、実験などの様子を動画やアニメーションで伝えられるというメリットが大きいという主張。

Singer, L. M., & Alexander, P. A. (2017). Reading on paper and digitally: What the past decades of empirical research reveal. Review of educational research, 87(6), 1007-1041.

⇒ システマティックレビューを通じて、紙とデジタルの比較を行った数十件の研究が、読書を明確に定義しておらず、使用されたテキストの「内容と量」を適切に提示していない、個人差要因をほとんど考慮していないといった問題があると批判している。
 
 

実験研究(たまたま読んだものだけ)

 

Merkle, A. C., Ferrell, L. K., Ferrell, O. C., & Hair Jr, J. F. (2022). Evaluating E-book effectiveness and the impact on student engagement. Journal of Marketing Education, 44(1), 54-71.

 経営学部の授業で、紙の教科書と電子教科書の教育効果を比較した。秋学期に259人、春学期に395人の学生を対象とした準実験的手法で調査を行った。結果は、電子書籍は紙の教科書に比べて、学生のエンゲージメントに関していくつかの側面ではプラスの影響をもつ一方で、他の側面では中立的あるいはマイナスの傾向の影響をも持つことが分かった。また、電子書籍の有効性が科目によって大きく異なることも分かった。
 プラスの影響としては、演習に関してオンラインで即時のフィードバックが得られることなどによって、学生のエンゲージメントが高まった。一方、デバイス間での互換性の問題や、紙に比べて使いはじめが複雑であること、目が疲れるといったマイナス面もあることが指摘されている。
 科目によって効果が異なり、テクノロジーに関する授業などでは高い効果があったが、マーケティング原論のように伝統的な基礎科目では効果が低かった(★面白い)。

Richter, A., & Courage, M. L. (2017). Comparing electronic and paper storybooks for preschoolers- Attention, engagement, and recall. Journal of Applied Developmental Psychology, 48, 92-102.

 これは面白い(★)。79人の未就学児に対して、紙とタブレットで物語の読み聞かせの比較を行ったのだが、電子書籍のほうが、子供は強い関心をしめした。ところがその関心というのは、機器そのものへの関心であった。ストーリーの内容への関心は、紙の本のほうが強く出た。なお、ストーリーの理解や記憶の定着に関しては、電子でも紙でも差はない
 また重要なこととして、電子書籍については、紙よりも読む時間が2倍多くかかっている。なぜかというと、本の内容よりもデバイスそのものの操作に興味が湧いたからという面もあるし、紙だと見開きなのに対し電子では1ページ1枚だったのでページ送り操作が増えるというのもあるし、タッチすると何かアクションが起きる部分で遊んだり、音声やアニメーションが伴っているからであった。

Singer, L. M., & Alexander, P. A. (2017). Reading across mediums: Effects of reading digital and print texts on comprehension and calibration. The journal of experimental education, 85(1), 155-172.

 90人の大学生に、子供の病気に関する文章を、紙とデジタルで読ませて比較した。学生は普段はデジタルテキストをよく読んでいるという人が多数で、読んだ後の自己認識でも、「デジタルで読んだほうがよく理解できた」と7割の学生が答えていた。しかし理解度チェックを行うと、テーマレベルでの理解については紙でもデジタルでも差がなかったが、個々の具体的な情報の理解や記憶は、紙のほうが優れていた。デジタルだと自己理解を過信してしまうということと、大雑把な粒度での理解についてはデジタルでも大丈夫という点が重要。

Lenhard, W., Schroeders, U., & Lenhard, A. (2017). Equivalence of screen versus print reading comprehension depends on task complexity and proficiency. Discourse Processes, 54(5-6), 427-445.

 教科書ではなくテストの実験だが、テストで違いが出る理由の説明が面白かったので載せておく。1年生から6年生までの2807人の児童を対象に、ドイツ語(国語)のテストを紙かコンピュータで受けさせる実験を行ったところ、特に単語レベルの設問に関してコンピュータを使った児童の方が解答は早かったが、正解率低いというトレードオフが生じた。文レベルの設問になったり、あるいは学年が上がるにつれて、違いはなくなっていく。マウス操作は鉛筆よりも誤クリックを止めにくいこと、コンピュータでは1問ずつ表示されていて見直しができない、テレビゲームのノリで「速く浅く処理する」モードになってしまうなどの原因が考えられている。