最小二乗法の歴史を調べていたら(先日のエントリ)、かつて統計学を発展させたのは「天体観測」と「測量」だったのだなぁということを改めて実感したのですが、そういえば私は中高生だった1990年代に天体写真を撮っていました。で、「そういえばいまの望遠鏡のトレンドってどうなってるんだろう?」と思ってメーカーのサイトを見てみたら、当時とはかなり考え方が変わっているなと思いました。一言でいえば、「屈折式の地位がめちゃめちゃ上がってる」ということです。
まず前提として90年代当時の「天体望遠鏡選び」の基本を整理しておくと、
- 屈折式:対物レンズと接眼レンズから構成されるもので、理科の授業とかで触れるのも、漫画とかで描かれるのもこのタイプが多いが、大口径化することが難しい(レンズは鏡に比べて高価)ので、写真撮影ではあまり使っている人がいなかった。
- 反射式(ニュートン式):対物レンズのかわりに主鏡で光を集めて鏡筒の横から覗くやつ。大口径のものでも比較的安価なので、太陽観測などを除けばどのジャンルでもこれが最もポピュラー。密閉されてないので、主鏡にホコリがついたり結露したりするのを気にする必要があり、光軸調整も必要なので、扱いはけっこう面倒。
- シュミットカセグレン式:屈折と反射のいいとこ取りで、鏡で光を集めるので屈折式よりは大口径化しやすく、鏡筒が密閉されているので扱いがちょっと楽。ただし反射式より高価なので、金持ちの(大人の)贅沢品というイメージなのと、焦点距離が長めでちょっと暗い。
- ドブソニアン式:大口径化に振り切ったやつで、雑誌などで見かけることはあるし面白いが、マニアックすぎてふつうは選択肢にならない。
という感じでした。中高生だった頃(高校時代は競馬のほうが頑張っていたのでほぼ中学時代)の知識なので不十分とは思いますが、天文ガイドのような雑誌は隅々まで読んでいたのと、専門書もけっこう買い揃えていたので(光学などの細かい理論は理解できませんでしたが)、大きく外れてはないと思います。
この当時の一番のポイントは、とにかく撮影時に長時間露光をする必要があるので、光量をかせぐために「大口径が正義」だったことです。
当時は、デジタルの冷却CCDカメラというものが少し出始めてはいましたが、フィルム撮影が主流でした。また、パソコンでの画像処理(当時は「電子暗室」とか呼ばれてましたw)環境も持っていない人が多かったと思います。色調の調整をするなら、自宅に暗室をつくって現像とプリントで頑張るという感じでした。
フィルムは、現代のデジカメのセンサーに比べると感度が弱いので、暗い天体を撮る場合は長時間の露光が必須でした。私は月面のクレーターの拡大写真と、木星・土星ばかり撮っていたのですが(スペック的に土星はかなり厳しかったですが)、月のような明るい天体でも強く拡大すると暗くなるので、1/2秒から2秒ぐらいは開けてたと思います。惑星になると、うろ覚えですが、10秒ぐらい露光することもあったような。
経験がない人にはなかなかイメージできないと思いますが、長時間露光するときは、カメラ本体のシャッターを使わず、文字通り「手動」で露出時間を調整します。どういうことかというと、まず黒く塗った板を手で持って、それを望遠鏡の先っぽにかざして光が入らないように塞ぎます(鏡筒に接触はしないように)。次に、接眼レンズにマウントしたカメラのシャッターを解放します。この時、望遠鏡が微細に振動するので、それが収まるまでしばらく待ちます。そして、もういいかなと思った頃に、かざしている黒い板をどけて露光を開始し、1/2秒とか1秒とか数えて塞ぎます。その後に、カメラ自体のシャッターも閉じる。
光量確保のために長時間の解放が必要で、何百倍という拡大率で撮影していると少しの振動でもボヤけてしまうので、こういう手順で撮るのが一般的だったと思います。で、フィルム撮影だとその場で写真の確認はできませんから、何十回も撮っておいて、後日現像に出して運よく良いものが撮れているか確認するという流れです。露出時間もいろいろなパターンを試して、何枚目が何秒だったかというのをノートに記録しておき、その後の参考にします。
ちなみに最近は、惑星や月の撮影で長時間露光はしないみたいですね。デジタルで連続撮影してきれいなものを重ね合わせるという手法が強いようです。
『天文ガイド』の18歳未満の部に3度掲載してもらいましたが、そのうちの一枚がこれです。少しぼやけていて褒められるようなクオリティではないですが、11.4cmという小口径の望遠鏡で中学生が撮ったものなので、大目に見てください(笑)

集光力は対物レンズや主鏡の口径の二乗に比例しますので、上述のような環境だと、とにかく「大口径が正義」ということになります。光量があればあるほど、拡大率を引き上げることもできますし、露光時間が短時間で済むので振動(や大気のゆらぎ)の影響を受けにくくなって、綺麗な写真が撮れます。惑星とかを狙うのであれば、だいたい20cmクラスぐらいの望遠鏡を持っていないと雑誌の投稿欄で掲載を争えるような写真は撮れない感じでしたが、私とおなじ機種で、ガイドスコープによる補正などを駆使して木星か何かのきれいな写真を撮っている人もいたので、気合で乗り切れる面もあるのだなと感心したりしていました。
まぁいずれにしても、大口径原理主義になりがちなので、口径あたりのコストが安いニュートン反射式が圧倒的に主流でした。色収差がないというメリットもあるらしいですが、そんなことよりまずはとにかくコスパでしょう(笑)。屈折式は眼視がしやすいので、写真以外の用途ではよく使われていたと思います。眼視のほうが明るく見えやすいんで。
今でも、コスパの良さから、大口径の反射式を買ってより本格的な(というか暗くて撮りにくい)天体を……というムーブは当然あると思いますが、デジカメのセンサーがかなり優秀で、かつてのフィルムより感度がいいようです。そうなると、昔ほど大口径にこだわらなくてもよく、扱いが楽な屈折式が写真撮影用途で現実的な選択肢になってくるんでしょうね。
もともと屈折のほうが、筒内気流や反射時の散乱がなく、コマ収差と言われる滲みもないので、原理的に反射式よりシャープに撮れるという強みがあって、それが活かせるようになったのだと思います。しかも、アポクロマートという技術で色収差の問題がほぼなくなったみたいですし。
星雲などで長時間露光するにしても、ガイドスコープを使ったオートガイドの精度が上がっているようで、そのことも「小口径でも撮れる」を後押ししてるのかも知れません。色収差の補正技術が向上した結果、短焦点化が可能になり、明るく撮れる屈折式が増えたってのもありそうです。
いずれにしても、私は天体写真撮影用の望遠鏡としては、「ニュートン反射一強」という認識だったので、屈折式の地位が上がっていることを知って驚きました。市場シェアとしても、屈折式のほうが売れているそうです(参考リンク)。昔は、月でも惑星でも星雲星団でもニュートン反射がバンバン使われてましたが、今は月・惑星では屈折式かシュミットカセグレン式が使われていて、反射式はどちらかというと星雲星団(いわゆる「深宇宙」)撮影用という雰囲気にシフトしてきているようです。時代は変わるものですね〜。
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